KH Chronicle

1975年生まれ。サッカーのことを多めに書いています。医療と経済にも興味があります。

【Book】「現代思想入門」を読了

2023年の新書大賞に輝いた「現代思想入門」を読了しました。読了したと言うか、後半はなかなか難解な文章だったので、理解せずに読み進めた部分が多かったです。作者は千葉雅也さん。1977年生まれですから私と2歳違い。ほぼ同世代です。東大を卒業していて、今は立命館大学の教授をされています。40半ばで教授というのは、その世界に詳しくないですけどなかなか早い出世じゃないですか。

この本を読もうとしたきっかけは、新書大賞をとったことです。最近の、私の本のセレクトは出版社が出している賞を参考にしています。前までは売れている本をチェックしていましたが、どうも売れている本と自分のニーズや知識がマッチしないなと感じ始めました。この辺り、森博嗣さんの「読書の価値」という本で書かれていました。人気の本が必ずしも自分と相性がいいとは限らない、です。

しばらくどうやって本を選ぶか迷宮に入っていましたが、出版社が発表している賞をもらった本が面白いと気づきました。「現代思想入門」以外にも「新書大賞2023」のサイトでは色々な本が紹介されています。このリストから本を選んでみるのも面白いと思います。出版社って編集以外にもこういうところで社会貢献できますよね。もっと出版社から面白い本を教えて欲しいです。

で、本題の「現代思想入門」です。これ、本のタイトルからはわかりにくいかもしれませんが、いわゆる最近の哲学を紹介する本です。前半のデリダ、ドゥールーズ、フーコーの説明まではなんとなくですけど、頭に入って来たのです。レヴィ=ストロースに代表される構造主義の後に出てきたのがデリダやドゥールーズでした。

構造主義というのは、ざっくりいうと事象を構造的に捉える、例えばサッカーで3強と呼ばれるチームがあって、AはBに強く、BはCに強く、CはAに強いとしましょう。これってジャンケンと同じ構造だよねという話ができます。構造主義というのは、このように見た目は違っても同じ構造に当てはめられるというように事象を構造で捉えようとする考え方です。その代表格がレヴィ=ストロース。

そしてその構造主義の後出て来たのが、ポスト構造主義の思想家たち。構造から外れた、逸脱したものにフォーカスしてそれを深掘りしていこうという考え方です。だいたい1960年から90年くらいに活躍した人たちを指しています。

例えばカツカレーをレストランで注文するときに、カツカレーを食べるとハイカロリーなので健康によくないな、違うメニューにしようかなという考え方と、人生は一回きりなんだし、食を楽しもうではないかという考え方。この二項対立が常に人の生活にはあって、ポスト構造主義の思想家たち、特にデリダはこの二項対立について深掘りしているそうです。ドゥールーズやフーコーもこの二項対立に対して少しずつ捉え方を変えて論じているイメージです(と私はこの本を読んで理解しました)。

そういう現代思想に少しでも触れたい、トライしてみたいという人にちょうどいい本です。私はこの千葉さんがいいなぁと思ったのは、本の中で以下のように書いていたところです。

現代思想を学ぶと、複雑なことを単純化しないで考えられるようになります。単純化できない現実の難しさを、以前より「高い解像度」で捉えられるようになるでしょう。(中略)

「世の中には、単純化したら台無しになってしまうリアリティがあり、それを尊重する必要がある」という価値観あるいは倫理を、まず提示しておきたいと思います。(12ページ)

また巻末の方で、本の読み方について以下のように記載されていました。長いですけど引用しておきます。これも好印象です。

細かいところは飛ばす。一冊を最後まで通読しなくてもいい。読書というのは、必ずしも通読ではありません。哲学書を一回通読して理解するのは多くの場合無理なことで、薄く重ね塗りするように、「欠け」がある読みを何度も行って理解を厚くしていきます。プロもそうやって読んできました。

そもそも、一冊の本を完璧に読むなどということはあり得ません。改めて考えてみると「本を読んだ」という経験は、実に不完全なものであると気づきます。たとえ最後まで通読しても、細部に至るまで覚えている人はいません。強く言えば、大部分を忘れてしまっていると言っても過言ではない。どんな本でしたかと言われて、思い出して言えるのは大きな「骨組み」であり、あるいは印象に残った細部です。これはプロでも同じことです。不完全な読書であっても読書である、というか、読書はすべて不完全なのです。こうしたことが、ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』(ちくま学芸文庫)で真面目に論じられているので、ぜひ読んでみてください。

また、たくさん本を読まなければならないというプレッシャーから、速読に憧れるかもしれませんが、速読法は意味がないと思っていいです。自分に無理のないスピードで読書の経験を積んでいくことで、読むのは自然と速くなるのです。超人的なスピードにはなりません。月に何百冊などと豪語するものがありますが、ありえません。ありえないというか・・・(以下略)

この本にはたくさんの思想本が紹介されます。この本をきっかけにして多くの思想、本を知ることができます。そして作者は上のようなアドバイスを巻末に書いており、難しい本も何度もチャレンジすることで読み解いていくことができると示しています。

この本をガイドに私も、少しこの分野の知識を掘り下げてみようかなという気持ちになりました。そういう意味で、タイトルの「現代思想入門」というのは、内容にぴったりだと思います。なかなか難しい本ながら、この記事を書いている時点で13万部を超える売り上げというのも納得です。刺激をもらえた本でした。また時間をおいて読み直してみようと思います。