KH Chronicle

1975年生まれ。サッカーのことを多めに書いています。医療と経済にも興味があります。

【Book】砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか?→クッソ面白いので、ぜひ読んでみて下さい。

五百蔵容(いほろい ただしと読みます)さんの著書「砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか?」を読み終えましたので、感想を書いてみます。全体的には誠実に書かれていて、ハリルホジッチさんの評価が高い本です。
 

 
Amazonでは品切れ状態で、1〜2ヶ月の入荷待ちです。たぶん元々の印刷数が少なく、W杯前という良いタイミング、SNSでも著者が積極的にプロモーションをしているため、品切れになっているようです。著者によると大きな本屋さんではまだ置いてあるのではないかと言うことです。


サッカー×旅で有名な村上アシシさんも読んだ方が良いとブログで書いてありました。

ハリルホジッチ解任劇について、少しでも真相に近づきたい人は、千円払って読む価値が確実にある。日本代表サポーターはロシアワールドカップ前に必ず読んでおきたい。

引用元:僕は確信した。ハリルホジッチ解任の本当の理由を | Endless Journey


僕はこの辺の界隈の人は、SNSだけでなく、リアルでも交流があると思うので、持ちつ持たれつのプロモーションをされているのかと推測しておりますが、私がこの界隈の人たちをわりと好きですので、素直に従っております(笑)。

作者の五百蔵さんについては、この本の後ろにプロフィールが書かれてあります。肩書きはサッカー分析家、シナリオライター、プランナーです。元々早稲田大学第1文学部を卒業されてセガに入社、プランナー、シナリオライター、ディレクターとして様々なタイトルの開発に関わったそうです。

2006年に独立してから様々なプロジェクトに関わっているそうで、サッカーに関してもその才能を発揮されているようです。プロフィールだけを見ると、マルチな印象を受けますね。

すごく理論だっている本

読んだ感想としては、始めに書きましたが、誠実というワードがまず出てきます。なぜかというと、サッカーファンって本当に色々な人種がいて、この本ではハリルホジッチさんをどちらかというと擁護していますが、世の中には「いや、あんな監督、解任して当然でしょ。」と言う人もいるわけです。

そういう人にも伝わるようにだと思うのですが、非常に丁寧に作られていて、サッカーという競技そのものについての議論から始まっている章もあります。ゴール型のボールゲームだと。同じような競技として、バスケやラグビー、ハンドボールやアメフトと比較しています。で、サッカーだけ特異な部分があり、足を使うと言うことと、プレイヤー1人に対するピッチサイズの、過大な広さを挙げています。

ここからゾーンとマンツーマンの守備方法に広がり、エリアに区切って戦術を立てるというような話につながってきます。すごいなと思ったのが、つまりそういった戦術の説明をするために、サッカーの根本的な部分から話をスタートしていると言うことです。非常に論理的に、誠実な説明がなされています。こういう部分で、私は作者の好感度高いです。

ハリルホジッチの良い部分

私もハリルホジッチの評価は高かったのですが、その理由は以下のようなものです。

  • 岡田監督の時は、基本的に自陣に下がって守備を固め、カウンター狙い。
  • ザッケローニ監督の時は香川と長友がいる左サイドで崩して、右の岡崎で仕上げる
  • 上の2人の戦術を見ると、戦うエリアが同じなこと。岡田監督は自陣に下がり気味に、ザッケローニ監督は攻撃的で左サイドが主戦場。
  • 特にザッケローニ監督は、ほとんどの試合でメンバーが同じ、戦術も同じ。本番が近づくにつれて、だんだん通用しなくなっているのが目に見えていた。
  • 相手に合わせて、戦術を変更するというシーンはあまり見られなかった。
  • ハリルホジッチ監督の良いところは、試合ごとで何か違う。引いて守る時もあれば、結構押し込む時もある。これは今までの監督に見られない、良いパターンなんじゃないか。

 

上記のようなことをぼんやりと思っていたのですが、この本ではきちんと「エリア戦略」という言葉を使ってわかりやすくハリルホジッチ監督の戦術を説明してくれています。そうか、私の感じていたハリルホジッチ監督の良いところはエリア戦略がきちんとしていたことなのか、と腹落ちした気分でした。

ハリルホジッチ監督が、その名を世に知らしめた、アルジェリア対ドイツ代表の試合。これもかなり細かく説明してくれています。優勝したドイツをなぜアルジェリアは土俵際まで追い詰めることができたのか。なるほど〜という解説です。

デュエル、体脂肪率についても、なぜそれをハリルホジッチさんが主張したかと言うことについて、しっかりと書かれています。日本のスポーツ史上、もっとも大きなアップセットとなったラグビー日本代表対南アフリカを指揮したエディ・ジョーンズさんは、デュエルを非常に重視していました。そしてハリルホジッチさんとエディ・ジョーンズさんは意気投合した仲だったのです。

まあ、この辺の件はかなりページ数を割いて書かれてありますので、本を読んでみて下さい。如何にデュエルが大事か、体脂肪率について日本のメディアはそれほど重く取りあげなかったが、如何に世界基準で体脂肪率は評価されているか、そういうことが書かれてあります。

霜田正浩さんのインタビューも良い

巻末に補遺として、現在レノファ山口の監督をされている霜田正浩さんのインタビューが掲載されています。霜田さんは、ザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチを日本代表監督に招聘した元技術委員長です。

この部分が結構面白く、メディアに出ていないハリルホジッチさんの性格というか、人物像が霜田さんによって語られています。日本で無名だったハリルホジッチさんをどうして招聘しようと思ったか、その辺が特に良かったですね。

JFAの、霜田さんに対する処遇を見れば、何かあったんだろうなとは思います。ただ、この本ではこの件については、それほど深く切り込まず、どちらかというと、岡田さんからここまで結構良い流れで日本代表がやってきたのに(積み上げてきた)、このままではハリルホジッチさんのレガシーが何も残らず、ロシアW杯が終わった後も、何の議論も行われず、今までの流れ(積み上げ)がぶつんと切れてしまうのではないか。それを憂慮して、懸命にハリルホジッチさんがやってきたことを掘り下げようとされています。

いや、非常に良いことなのではないかと思います。今年の4月9日にまさかのハリルホジッチ解任報道があり、著者のあとがきによると、ほぼ最終入稿だった本書を再構成し、作り直したと言うことです。かなりハードな展開だったと思われます。

私は、サッカーの見方は、本当に十人十色だと思っていますが、この本はハリルホジッチを深掘りするというところで、かなり抜きんでたものを感じます。サッカー好きな人は、ぜひW杯前に読むと良いです。このブログをW杯後に読んでしまったと言う人は、W杯後でも構いません(笑)。面白いので読んでみて下さい。